検討用語
サイレント・マニピュレーション(サイレントマニピュレーション、サイレントマニプレーション)
調査・検討の要望理由
2023年に実施した日本肩関節学会会員に対する検討希望用語募集に対して、当該用語について、検討を希望する意見が寄せられた。その際の申請者の検討要望理由は、「サイレント・マニピュレーション (文献1) は、直訳すれば『静かな(音を出さない)非観血的授動術』を意味すると思われる。しかし、実際に徒手的な授動を行う際には拘縮組織が破れる音がする。したがって、『サイレント』という名称を冠するのは、用語として不正確ではないか」というものであった。
調査・検討方法
①文献調査
PubMedを用いて、これまで発表された”silent manipulation”という用語を含む英語論文について調査した。
②アンケート
2024年9月に日本肩関節学会正会員、名誉会員、功労会員および準会員1号・同2号を対象としたアンケート調査を実施した (表1) 。
結果
①文献調査
PubMedで渉猟し得た範囲では、”silent manipulation”を検索用語として検索された英語論文は、 文献2及び3 の2編であった。これらの論文には、次のような記述がみられる。
<文献2>
In silent manipulation (SM), the patient remains awake and the cervical nerve roots C5, C6, and C7 are blocked under ultrasound guidance. The term “silent” is used because the joint capsule is released with as little noise as possible, to avoid causing anxiety in the patient. SM has shown good short-term results, with improvements in ROM, pain, and clinical scores.
<文献3>
Manipulation under anesthesia is often performed when ROM does not improve with conservative treatment. We have been experimenting with ultrasound guided treatment for frozen shoulder since about 2010. This treatment, subsequently named “silent manipulation” by Minagawa, involves manipulation of the shoulder joint under local anesthetic nerve block and has been widely used.
②アンケート
サイレント・マニピュレーションという用語を「日常診療で使用したことがある」と回答したのは、447名250名であり、半数を超える結果であった (表2) 。また、国内および国際的学術用語として使用することについては、使用可とする会員が153名、使用すべきでないと回答した会員が151名と、使用可とする意見がわずかに多い結果だった (表3) 。しかし、日本語論文での使用の可否については、使用可が141名に対して、使用すべきでないが169名であり、反対意見が多数を占めていた (表4) 。さらに、”silent manipulation”が国際的な医学用語として使用可能かという質問に対しては、「国際的に通用する医学用語である」と回答したのがわずか18名だったのに対して、「国際的に通用する医学用語ではない」と回答した会員が317名に及んだ (表5) 。特に、”silent manipulation”を英語論文に用いることについては、申請者と同様に、妥当性を疑問視するコメントが多数寄せられた。
考察
今回行った文献調査において、”silent manipulation”という用語を用いた英語論文は依然としてごく少数であり、海外での認知度についても限定的なものにとどまっていると推察された。
一方、会員アンケート調査においては、「サイレント・マニピュレーションという用語を、日常診療で使用したことがある」という回答が全体の過半数を占めたこと、国内の学会発表での使用を可とした会員数が、不可と回答した会員数を上回ったことから、国内においてはある程度認知されていると考えられることが、明らかになった。
しかし、日本語論文においてサイレント・マニピュレーションを用いることについては、不可が可を上回っており、英語論文での使用の可否については実に447名中317名(70.9%)が不可と回答していた。こうした結果から、この用語は国内および国際的な表記としては、いまだ十分認知されるに至ってはいない、と考えられた。
なお、少数ではあったが、既に”silent manipulation”という用語を用いた英語論文が複数発表されていることから、「今後国際的学術用語として国外に広めていくべく、日本から発信していくべきである」という意見もあったことには、留意しておく必要があると思われた。
結論
日本肩関節学会用語委員会としては、「現時点においては、国内外の学会や日本語・英語論文において、「サイレント・マニピュレーション」やその英語表記である「silent manipulation」という用語を、単独で使用することは好ましくないと判断する。また、患者説明などの日常診療に限定してこの用語を使用可とするべきかについても、未だ統一された見解は得られておらず、さらなる議論が必要と考える。
具体的には、サイレント・マニピュレーション」及びその英語表記である「silent manipulation」という用語を単独で用いることを避け、日本語では「腕神経叢ブロック下での非観血的授動術」、英語では「manipulation under brachial plexus block」等の表現を用いるか、「腕神経叢ブロック下での非観血的授動術(サイレント・マニピュレーション)」「manipulation under brachial plexus block (silent manipulation)」のように、併記することを推奨する。
文献
- 凍結肩の診断と治療(肩関節拘縮に対するサイレント・マニピュレーション).皆川洋至.MB Orthopaedics 25 (11) 93-98, 2012.
- Miyatake K, Wakita R, Fujisawa T, Kawabata Y, Kusaba Y, Naka T, Nakamura R, Tsujiku S, Inaba Y. Satisfaction of patients with frozen shoulder following silent manipulation: a prospective observation study. Sci Rep. 2024 Sep 28;14(1):22409.
- Park K, Matsuzaki M, Okamoto M, Sakaki A, Ikuta F. Effect of manipulation technique using ultrasound-guided cervical nerve root block on range of motion at the shoulder joint in frozen shoulder: a retrospective study. J Exp Orthop. 2022 Jul 6;9(1):63.
会員アンケートの結果
| 回答者 | 回答数 |
|---|---|
| 正会員・名誉会員・功労会員 | 404 |
| 準会員1号・準会員2号 | 32 |
| 未回答 | 11 |
| 1.はい | 250 |
| 2.いいえ | 191 |
| 3.その他 | 6 |
| 1.使用してよい | 153 |
| 2.使用すべきではない | 151 |
| 3.どちらともいえない | 134 |
| 4.その他 | 9 |
| 1.使用してよい | 141 |
| 2.使用すべきではない | 169 |
| 3.どちらともいえない | 128 |
| 4.その他 | 9 |
| 1.国際的に通用する医学用語である | 18 |
| 2.国際的に通用する医学用語ではない | 317 |
| 3.どちらともいえない | 106 |
| 4.その他 | 6 |