日本肩関節学会の取り組み

海外だより

ASES トラベリングフェロー帰朝報告

落合 信靖

千葉大学医学部整形外科

2024年9月18日から10月19日の5週間、JSS/ASES Travelling Fellowとして奈良県立医科大学の井上和也先生とともに、米国の8施設を訪問し、ASES annual meeting に参加する貴重な機会をいただきました。ここでは fellowship の後半部分についてご報告いたします。

ハリケーン Helene の影響を受けて急遽訪問することになった Charlotte を後にし、本来の予定通りフロリダ州タンパの Mark Frankle 先生を訪問しました(写真1)。しかし、ここでも第2のハリケーン Milton に直面することになりました。予定では Frankle 先生のご自宅訪問、ボートツアー、ホッケーの試合観戦、カンファレンスなどが用意されていましたが、すべて中止となり、ご自宅での食事(カラオケを歌う機会もありました)と翌日の手術見学のみとなりました。手術は、DJO のインプラント開発者でもあり RSAの第一人者である Frankle 先生のこだわりが詰まった外方化デザインの3件を見学し、外方化の重要性について直接お話を伺えたのは非常に貴重な経験でした。

写真1

ところが、午前中の手術の最中に「午後からハリケーンがタンパを直撃するため、危険なので急いで移動した方がよい」との判断が下され、急遽、DJO 使用者である Chicago の Rush University の Grant Garrigues 先生に連絡を取っていただき、シカゴへ向かうことになりました。この移動が、1か月間で最も過酷なものとなりました。本来は飛行機で移動する予定でしたが、空港閉鎖と住民の大規模避難の影響で不可能となり、空港のレンタカーショップで車を借り、飛行機が飛んでいる空港を目指して陸路で移動することになったのです。高速道路は住民の避難による大渋滞で、フロリダ州を脱出し、アトランタまでの約12時間以上を運転(途中、高速道路の休憩所で車の中で仮眠)し、ようやくシカゴ行きの飛行機に乗ることができました。

シカゴでは、急なお願いにもかかわらず Gregory Nicholson 先生(写真2)、Grant Garrigues 先生(写真3)に快く受け入れていただきました。Nicholson 先生はアメリカで最初に RSA を行った先生で、腱板再断裂後の RSA、後方グレノイド骨欠損に対する骨移植併用 RSA、若年 OA 患者に対する inlay TSA(小さいポリエチレンを埋め込むタイプ;若いOAの患者さんではglenoid componentの緩みが生じにくく、臨床成績も良好とのことで最近使用されてきているようです)、さらに Nikhil N. Verma 先生の MCL再建+ internal brace など、多彩な症例を見学できました。翌日は Grant Garrigues 先生の変形性関節症に対する RSA、DJOの後上方augmentの RSA、鏡視下腱板修復術などを見学させていただきました。お二方の先生は急な訪問にもかかわらず、手術見学、外来見学、ラボツアー、シカゴ観光など様々なおもてなしをしてくださいました。

写真2
写真3

最後の訪問地はサンアントニオ、TSAOG Orthopaedics の Robert Hertzler 先生(写真4)のもとを訪問しました。2日間の手術見学では、RSA、鏡視下腱板修復、distal tibia のアログラフトを用いた関節窩再建(3Dプリンターで模型を作成し、術前シミュレーションを行っていました)などを見学しました。また、この施設には Stephen Burkhart 先生の Burkhart Bioskills Lab があり、ここで distal tibia アログラフトを使用した手術を実際に体験させていただきました(写真5)。さらに、サンアントニオでは研究会も開いていただき、そこには肩関節の世界的権威であり、すでに引退されている Stephen Burkhart 先生(写真6)も来てくださり、自分の研究発表を行いアドバイスをいただくなど、非常に貴重な時間を過ごすことができました。

写真4
写真5
写真6

旅の締めくくりは ASES(American Shoulder and Elbow Surgeons)annual meeting への参加でした。ASES の meeting は通常 closed で、member のみが参加できる学会ですが、今回 traveling fellowship に参加したことで ASES の corresponding member となり、参加することができました。学会では第1会場、第2会場を中心に一般演題発表、シンポジウム、ICL などを聴講しました。特に興味深かったのは VR を用いた人工関節のシミュレーションで、日本でも今後、手術手技の教育に VR が活用される可能性を感じました。また、学会では日本から ASES のリハビリテーション学会 ASSET に招待されて参加されていた大阪医科薬科大学の三幡先生、そして三幡先生と親交の深い Thay Q Lee 先生と食事をご一緒し、最後の良い思い出となりました。

この1か月間、手術見学、カンファレンス、発表等、さまざまな貴重な経験をさせていただきました。手術はやはり人工関節が圧倒的に多い印象で、日本人との違いとして体格差が大きく、小柄な患者さんが少ないため、日本で議論される inlay・onlay のような問題は、米国ではどちらを選んでも安定した術後成績が得られているのではないかと感じました。また、英語での発表を何度か経験し、ある程度の英語力があると思っていましたが、夜の食事会などの場面ではやはり語学力不足を痛感し、今後さらに研鑽が必要だと感じました。ハリケーンなど予想外の苦労もありましたが、1か月間にわたりさまざまな施設を見学できたことは、非常に貴重な経験であり、この経験をしっかりと肩関節学会に還元していきたいと思います。

最後に、今回の traveling fellowship に際し、ご尽力いただきました日本肩関節学会理事長の菅谷啓之先生、国際委員長の三幡輝久先生、面接で選考いただきました国際委員の先生方、事務局の川村さん、ご同行いただいた井上和也先生、そして長期出張を許可いただいた大学および関連病院の先生方に、心より御礼申し上げます。

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